断章のグリム5&6 赤ずきん上・下


【ストーリー】放課後、白野蒼衣はいつものように古びた古物屋『神狩屋』を訪れた。そこにはあまり見ない女性がいたので珍しく客人が来ていると思ったが、彼女も<騎士>の一員で神狩屋と同じく<ロッジ>の世話係をしている関係者だった。本来ならばただの商談に来ただけなのだが、またしても<悪夢>の予言が起きてしまう。今回蒼衣と雪乃の赴く街で待ち受けている悪夢とは…



今回は結構グロ少なめでしたね(当社比50%マイナス)
流石に5・6巻まで来るとこのシリーズ独特のグロさにも慣れてきました。
読み終わった頃には、あれ?今回のグロシーンはこれだけ?と最初に読んだときには考えられない程の成長ぶりです。

というより、作者の人はこのシリーズを書き慣れてきた感じがしますね。
1巻の頃こそ、よっしゃ!強烈な印象を読者に与えるぜ!とばかりに気合が入っていたグロシーンでしたが、大分グロの匙加減がちょうど良くなってきています。
正直前巻の『人魚姫』はグロシーンがやたら多くてストーリーがなかなか進まないという難点もあったのですが、『赤ずきん』では随分改善されていました。
この位になればちょっとグロが苦手な人でも読めるんじゃないかな?


そしてテンポが良くなった分、ミステリやホラー成分が増しているように見えました。
前回からそうでしたが、<悪夢>の<潜在者>がわからない状態で進むので、まるで怪談のような怖さがあります。
これは単なる『驚き』ではなく、この先何が起こるか分からないという『未知』という恐怖です(ここ重要)。


私は割とホラー映画が好きなのですが、結構『驚き』と『恐怖』を取り違えているホラー映画が多いんですよね。
人間は何が何だかわからないという『未知』に対して一番恐れを抱くのだと思います。
かの有名ホラー映画『リング』を例えに出してみます。
何故あの作品が怖いかというと、貞子がテレビから出てくるのも怖いかと思いますが、何よりも「殺されるシーン」が描写されていないことが一番の恐怖なのです。
確かに被害者の遺体は見つかります。しかし、肝心の殺され方が描写されていないことで、何が起こるの!?という恐怖が生まれるんです。

ミステリ作品にも言えることだと思いますが、この断章のグリムでは誰が犯人(悪夢の潜在者)なのかがわからない→どんな殺され方なのかわからない。こういったように「わからない」だらけの恐怖が生まれます。



物語の展開については今回も蒼衣たちは他の<ロッジ>へと応援に出向くことになります。

やっぱりそこで童話に似た事件が起きていて、それを解決する流れになるのですが今回は登場人物がかなりよかったです。

応援先の<ロッジ>に所属する馳尾勇路という中学生が実に良かった。
彼はある守りたい者のために事件へと関わっていくのですが、思春期の男の子特有の強がりや見栄が邪魔して物事を冷静に見えていません。
自分ひとりでも解決できると奢るあまり、蒼衣や雪乃、果ては同じ<ロッジ>の世話係である四野田笑美にまで迷惑をかけることに。
傍から見たら迷惑なガキですが、同じような道を通った身としては苦笑してしまいます…


甲田先生はミステリアスなストーリーを書くのも上手ですが、こういった少年少女を書く能力が素晴らしいですね。
同じように<悪夢>被害者の友達グループ間での地位やパワーバランスの描写なんかは嫌なほど生々しいです。
自己顕示欲が強くそのために他人を利用したりクラスで地位の高い子の陰に隠れるなど、子供ならではの非常な残酷さがリアルに思い出されましたよ…


それに対比して今回蒼衣はよく頑張っていましたね。
雪乃のイライラの抑制になったり、リタイアしてしまった雪乃の代わりに奔走して事件を解決に導くなど大活躍です。
その能力の関係上平時はほぼ一般人ではありますが、自分にできることを彼なりに考えて行動しているので、戦力にはならなくても主人公らしさを失いません。

普通を愛する彼にこそ、雪乃を救えるような気がしてきますね。



<悪夢>の恐怖や生々しい思春期ならではの未熟さ、そして蒼衣も頑張っていたので☆4つです。
敢えて触れませんでしたが、この5・6巻で雪乃と颯姫の背景がちょっとずつ明かされます。二人の普段見せない部分が見えたことで更に彼女たちの魅力が感じられました。
このままこのシリーズは読み続けていこうかと思います。