放課後の魔術師1オーバーライト・ラヴ

本来の目的と違ったけど古本屋で見つけて即買い!

【ストーリー】ある朝、播機遙(はりはたはるか)はちょっとした事故により見知らぬ少年・秋津安芸(あきつあき)と出会う。遙は彼を転校性だと思い、親切に接するがホームルームで愕然とする。なんと彼は17歳にして自分のクラスの担任だったのだ。それと同時に学校内では不思議な事が起こり始める…


第十二回スニーカー大賞奨励賞受賞作だそうです。

ん〜、転校生だと思っていた少年が実は教師でしかも魔法使い(魔術師)、さらに事件に巻き込まれることによって彼に急接近!
これだけ良いシチュなのだからさぞ青春溢れる(!)ストーリーなのだろう!と買ってみたのです。

ですが…色気が足りない!!

もう何でしょう、この拍子抜け感。16〜7の少年少女の物語にしては随分とあっさりし過ぎです!
いや、確かにそれに近いイベントとかはあったんですけど、なんかこう、ドキドキ感に欠けます。淡々と進み過ぎというか…
シリアスしか書けない人ががんばってそういうシーンを書き足したような…そう、恥ずかしくてこれ以上書けません、という作者の声が聞こえてくるようでした。
まぁ、ラブコメじゃないんですから別にいいんですけどね…。欲を言えばもう少し甘酸っぱさを加えて欲しかったな〜。


分類としては魔法アクションものです。
ヒロインの遙は安芸という教師の皮を被った魔術師と関わることで、<<鴉>>と<<血族>>との戦いに巻き込まれていきます。

安芸は論理魔術という、言葉によって物事に干渉する魔術――簡単にいえば、言葉にしたことがそのまま現実に作用する魔術(ただし無から有を作りだすなどは不可能)を使って事件にかかわった人の記憶を封鎖したり、物体を動かしたりして戦います。
その論理魔術というのが万能でなく、様々な条件が必要になるあたりは読んでいて楽しかったですね。
例えば人の記憶を封鎖する時には、相手と契約(A「君は何も見なかったし、それを忘れること」B「はい」という応答など)が必要になったり、物体を敵に当てるには「質量制御⇒対象1:目標⇒指定敵」みたいに言葉で指定するなど(ちょっと違うかも)。聖剣伝説で言うところの「真言」のようなものですね。

魔術の辺りについては理解が追いつかないところもありましたが、読んでいる内にそういうものなのだと割り切れるので問題ないです。
魔法の設定でどうしても文字数が多くなるので戦闘パートのテンポが悪くなりますが、その分人物の心理描写の上手さで十分カバーできていますね。
というより、この物語は魔法戦闘よりも人物の描写が上手いので、そちらを重視して読むほうがあってますね。


ヒロインの遙は魔術師の事件に巻き込まれていきますが、それでも状況に流されるのではなくしっかり自分の意思を持って向き合える芯の強い娘ですし、何より自分の周りの人たちを守ろうと戦いに向かう姿勢がかっこいいですね。
そうすると当然彼女の周りには、引きこもりだけど姉のことを大切に思う妹・仄香や友人の宮原や石丸などたくさんの味方が溢れています。
実際にいたら本当に友達が多いタイプですね。


ヒーローの秋津安芸もどこか若々しさに欠けますが、そこも言いかえれば誠実で冷静、いつも余裕のある大人の態度とも言えますね。本当に17歳かよ?というツッコミは無しでw


設定の裏地もしっかりしていますし、何より遙と安芸の二人の視点がグルグル交代する特徴的な文章が好感触でした。
決して今誰の視点かわからなくなるような読みにくい切り替わり方ではなく、カメラアングルが変わるようなハッキリとした交代で読みやすかったです。



全体的にみるとやっぱり展開の起伏に乏しい感じもしましたが、しっかり基準を満たしているようには感じました。奨励賞というのも納得。これにあと一味プラスされれば☆4つは堅いですね。
金銭的余裕があれば次も買ってみますかな。


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