葉桜が来た夏4 ノクターン

何と言う、何と言う巻き返し・・・!

【ストーリー】ラパーチェ事件の責任ということで葉桜は評議員候補の資格を剥奪されてしまい、さらには裁判によって葉桜には監視官がつくことになってしまった。時を同じくして、東京では反アポストリ派の政治家が殺されるという事件が起きていた。それを期に学の父親の恵吾の親アポストリ派は一気に不利な立場に立たされ、今にもアポストリと人間との間で戦争が再開されようとしていた!


うおぅ!?4巻に来ていきなり面白くなったぞコイツ!?


大きな勢力が取り巻くという状況は依然変わってはいし、逆に学たちの立場がどんどん危なくなってきた4巻ですが、思ってもいなかったどんでん返しが待っていました!まさかここまで覆してくれるとは…

何だかんだ言ってこの作者には頑張ってほしかったので私としてはうれしい限りです。



今回は前巻の事件が大きく響いて、葉桜が大きな罰を背負うことになります。一つは葉桜の評議員候補の資格剥奪、そして稻雀という<十字架>の軍警察の監察官が付くというあまりにも容赦のないもので、流石の葉桜でも今までのように強気に振舞ってもいられなくなってしまいます。更には東京で起きた反アポストリ派議員の殺害。
これによってアポストリと人間の関係は今まで以上に危ういものとなります。

ここまで徹底的に状況が悪化しているにもかかわらず、物語全体で見ると今までより格段に面白くなってました。

その理由を考えてみたところ、やっと主人公たちが動き出したことが大きいと思います。


3巻までは前の感想に散々書いたとおり、取り巻く状況があまりに大きすぎて学たちの手に負えていなかったんです。
今までも決して逃げているわけではありませんでしたが、学たちの持つ武器があまりに少なすぎて対抗のしようがなかったのです。それが4巻に来てようやく武器が揃い、反撃の狼煙をあげます。

ですが、その反撃の狼煙をあげるまでの展開に至るまでもスムーズにはいかず、序盤は読んでいて苦しかったです。
それはこれまで以上に非情で苛烈な怒涛の流れで、その流れは学たちを徹底的に痛めに痛め、もうどうしようもない、という程までに責め立てます。

ところが中盤でその溜まりに溜まったフラストレーションが一気に解放された時は半端ない爽快感でした!
東京で起きたある事件(反アポストリ派の殺害では無い)が起き、それによって学が窮地に立たされたときに思わぬ人からのメッセージが届き、学は遂に覚悟を決めます。

いいだろう、上等だ。任されてやる。人でなしの子供として立派に世界を救ってやる

これは学が覚悟を決めた瞬間のセリフなのですが、痺れましたね!

もし作者の人が1巻からここまでの展開を考えていたとしたら恐ろしいですね。そしてそれに気付けなかった自分が恨めしいです。
とてもじゃありませんが、行き当たりばったりで描いているとは思えない出来です。

「こい葉桜、すかした大人どもの鼻をあかしに行くぞ」
葉桜は呆けたように彼の顔を見返していたが、ややあってぶるりと白い頬が震えた。彼の手を取りながら昂揚した表情でうなずく。瞳の焦点が定まり、意志の強い眼差しが真っ直ぐに彼を見据えた。
「――はい、わが主‐シ・スア・マエスタ‐」

学だけでなく、葉桜も彼に触発されて立ち上がり巨大な<敵>へと立ち向かいます。今までの度重なる事件はこの二人の絆を強固にするための複線だったのかも知れませんね。



4巻は、これまでの抗えなかった運命を打ち砕くような一撃をお見舞いされたような衝撃を受けました。
確かに最初からこの巻のように反抗する力を学たちが持っていたら不自然でしたでしょう。
現にそういった物語は今まで読んできた本の中にはありました。しかし、それらは都合が良過ぎて魅力を感じさせるものではありませんでした。

作者はもし3巻で打ち切りになっていたら駄作に終わっていたところを、よくここまで粘りました!
正直今までの低い評価を謝りたいです。本当に良くやってくれましたよ!

最後には次巻で「あの人」が再び現れる臭いを漂わせていますね〜。実に楽しみです!


最初は各巻、季節に対応した氏族のアポストリを出して葉桜と恋の鞘当てでもさせようかと考えていましたが、気づけば明後日の方向に話が進んでいました。謎の美少女転校生とか幼馴染の眼鏡娘とか、企画段階では色々それらしいキャラもいたんですが。不思議です。(作者あとがきより)

な、何だと…。なんて良いシチュなんだ…。アナザーストーリーとして是非書いてください!!!