夜想譚グリモアリス2 堕天使の旋律は飽くなき

【ストーリー】巨大資産グループの御曹司である桃原誓護は溺愛する妹・祈祝の願いでクラスメイトの織笠美赤の通うフルート教室を訪れていた。感情の変化に乏しい祈祝が珍しく喜ぶ姿を見て誓護も満足…しかし教室を紹介してくれた美赤の視線も冷たい。そこへ教誨師であるアコニットが再来する。彼女は前回のような不自然に劣化したフラグメントを調査しに来たのだが、突然誓護の元に美赤から助けを求める電話が!あわてて美赤の元へ駆けつけると、そこには新たな教誨師・軋軋(ギシギシ)が美赤を追っているのだった!



今は絶版となってしまった富士見ミステリー文庫刊、夜想譚グリモアリスの第二巻です。
本編とは関係ない話になりますけど、今でこそ表紙を新たにしましたが昔の富士見の壮丁はタイトルに1とか2など、巻数が書いてないので買いにくいですよね〜。
グリモアリス”はまだ表紙に数字が振ってありますが背表紙だけだとわからないし、「フルメタ」や「まぶらほ」など長編シリーズなんかは特にどれが1巻なのかわからなくて買いにくいです。
表紙を新しくしたのはやっぱりそういう意見が多かったからなんでしょうかね。



さて、肝心の感想ですが、
1巻の時に感じた微妙なミステリが少し改善されているように思えました。


簡単に今回の設定を説明すると、
誓護のクラスメイトである織笠美赤は過去に親友を亡くすという傷を負っていた。その親友は美赤と一緒のフルート教室に通い、ライバルとしてお互い競い合う仲だったのだが、ある日突然美赤の前から消えてしまったのだ。
偶然事故現場で目撃者を捜す美赤に会った誓護は彼女のファンである祈祝のお願いということもあり、その後教誨師に追われて窮地に陥った美赤の無実を証明するために再び教誨師と対立する。



舞台こそ前回のクローズドサークルのようなものではありませんが、人殺しの罪をかけられている友達を教誨師から守りながら無実の証拠を集めて回るという、逼迫した緊張感が良かったですね。
アコニットの追う事件と美赤に関する事件。別モノと思っていた二つの事件が徐々に繋がり、最後は意外な人物が犯人が明らかになる展開もなかなか。

直接的な力はほとんど持たない誓護が異能の力を使う教誨師・ギシギシに対し、様々な策略を巡り翻弄する戦い方が特に面白かったです。
直接戦えば間違いなく勝てない相手にどうやって立ち向かっていくのか!というワクワク感を終始感じていました。

そしてアコニットも何だかんだ言いながらも誓護との約束を守る姿が高慢な振る舞いとのギャップで可愛いですw
しかし、そんな可愛さだけがアコニットの魅力ではなく、自分に誇りを持って『敵』に立ち向かう凛とした態度も彼女の魅力ですね。口だけでなく行動や態度に誇りが感じられるキャラクターはそうそう見られないです。

ちょっと「事件の犯人」は予想外でしたが、十分納得いきましたし楽しめました。
…それよりも「真の黒幕」のこれからの動向が気になりました。



全体的に見て、
前回より読みごたえはありましたがまだまだミステリとは言い難く、どちらかと言うとファンタジーアクションという素材にミステリというスパイスが加わったという感じですね。
どちらか片方では物足りず、両方あってこそ美味しい料理になります。

疾走感のある文章や誓護の機転、アコニットの時に見せる可愛い表情など見どころは多くて楽しめました。
1巻の時から感じてはいましたが、この作者のキャラクターを表現する能力は結構スゴイと思います。

多く登場する誓護やアコニットは当然ながら、祈祝なんかは殆どセリフを喋らないのに表情や仕草の細かいところまでイメージが浮かんできます。それがまた可愛くて、誓護があそこまで可愛がる気持ちもわからんでもない、と思わせられるほどです。

ほかほかと湯気を立てながら、パジャマ姿のいのりが入ってきた。
アコニットを認めた瞬間、『びくぅ!』と伸び上がり、ドアの向こうへ隠れてしまう。
「はは、何隠れてんの、いのり〜。アコニットだよ。怖くないよ〜怖いけど」
アコニット、という名前に反応し、ドアの陰からそっと頭を出す。

本当に何気ない部分ですが、こういった柔らかい文章の使い方が上手ですね。


基本この話はシリアスなのですが、全体の雰囲気を壊さない程度―いや、より引き立てるいい塩梅にコメディやラブ成分が混ぜられています。
確かにこの海冬レイジという作家さんはミステリを書くのはそこまで上手とは言えないかも知れません。しかし読者を楽しませる作家としては一流だと思います。

少しずつ絆の深まっていく誓護とアコニットのこれからにさらに期待してます。