読書の時間よ、芝村くん!2

読書の時間よ、芝村くん!  (2) (一迅社文庫)

読書の時間よ、芝村くん! (2) (一迅社文庫)

【ストーリー】物語のバグ−マビノギ−を回収するために本の世界へ入る旅を続けていた和樹と春奈、そして夏邪の三人。初めこそ閉鎖的な性格だった春奈も今では軽口が言える程夏耶と仲良くなり、表に出ないものの夏至祭の準備を手伝いをしたりと徐々に心を開いていった。

しかし、ある一件を境に再び春奈は心を閉ざし始め、夏耶や和樹との距離を置いてしまう。

徐々に壊れ始める三人の関係。そんな状況で和樹の選ぶ道は―――。

おぉ…!

すごく…すごく良かった!


1巻の時は主人公たちのキャラ立ちに差があったり、文章の中にもアラが目立ったのですが、2巻にして作者さんの実力が格段に成長している…!


影の薄かった芝村くんも今回はしっかり物語に食い込んできているし、ヒロイン二人の心情が丁寧かつ綺麗に描かれ、更には主役以外のクラスメイトたちもちゃんと”そこ”に生きていると感じられました。


今回は特に、

和樹・春奈・夏耶の三人の心の動きが―それこそ痛いほどに―伝わってきました。


大切な人たちが自分を置いていってしまうのではないか、という恐怖に怯える春奈。
和樹を想い続けるも、彼の瞳に映るモノがわかってしまって苦しむ夏耶。
そんな二人の狭間で、二人の想いに気付きながらもどちらかを傷つけてしまうことに悩む和樹。


誰から見てもこの状況は苦しいのですが、嫌だとは思いませんでした。


それは多分、

重要なポジションにいる和樹がハッキリしているからなのでしょうね。


和樹はラブコメにありがちな”不自然な鈍感さ”が無く、二人の気持ちを察することができます。しかも自分自身の気持にもちゃんと折り目をつけ、行動します。
なのでグダグダと苦痛を引き延ばし、今を逃れ続けるような展開にはなりません。


しかし、

ここで残酷なのが、その行動によって傷つくある人物があまりにも大人過ぎることです。


その人物は、自分の気持ちを理解した上で、他の二人の気持ちを理解しているのです。そしてその人はあまりに自立しているので、未熟な二人の仲を壊してまで自分の気持ちを押し通そうとはしない。

三人の中でこの人一人だけが先に進んでいるんです。
二人が前に進めずにいた時この人はどれだけ苦労してここまで来たのだろう、そう考えるとあまりに…。


最後に現れた新たな波乱の予兆がこの固まってしまった状況をどう動かしてくれるのかが楽しみです。




全体的に見て、

ちょっと苦しい部分もありましたし今回は前巻ほど物語の世界には行きませんでしたが、それでも相変わらず本の世界の人たちも表情豊かだし、三人の心の葛藤は苦しいけど読んでいて楽しかったです。
更に付け加えれば、前述のとおり主人公たちだけでなく周囲の人たちも登場することで世界が広がっていたのもよかったな。

書き忘れていましたが、カメのステラさんもちゃんと存在感があって物語を動かしていましたし、前巻のマイナスポイントは大体無くなっていましたね。

3巻も楽しみにしています。



全然関係ありませんが、

本文で気になった部分があったので引用。

「なんだ、もっとすごいの期待してたのに」
「いやいや、結構危機一髪だったよ。いちだいすぺくたくるだった!」
「刺激が足りないよ!こんなの納得できない!」
「殺人事件に発展して、さすぺんす風味を出した方がよかったんじゃないかな?」
「当たり前のことに気づいて、当たり前のことを言ってただけに見えた」
 そんな言葉があちこちから聞こえて来た。あたしは拳を固めて辺りを見回す。
「…そんなに、おかしい?」
(中略)
「あんたたちがどう思うかは知らないけど、あいつらは一生懸命だったのよ!一生懸命生きようとしてて、それのどこがバカバカしいって言うのよ!あんたたち、何様なのよ!あんたたちがどういう生き方をしてきたのか知らないけどね!頑張ってる人間を、その行為をバカにしていい権利なんかないんだから!」


こういうサイトをやっている身として、とても考えさせられる部分でした。