とある飛空士への恋歌

とある飛空士への恋歌 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 (ガガガ文庫)

【ストーリー】空飛ぶ島・イスラは数万人もの市民に見送られ、盛大な出帆式典により旅立った。あるかどうかもわからない空の果てを目指して。
「これはきれいに飾り立てられた追放劇だ」飛空士見習いの少年・カルエルは、6年前に起こったクーデタ「風の革命」によってすべてを失った元皇子。彼はすべてを失った原因になった「風の革命」の旗印ニナ・ヴィエントに憎しみの視線を送る…。

とある飛空士への追憶」と同じ世界を舞台に、再び恋と空戦の物語は始まる。

ラスト5Pからの衝撃がヤバイ!!

大空の恋歌、再び

「追憶」読了後、同じ世界を舞台にした続編があると知った時は猛ダッシュ!そしてその日1巻しか買わなかったことを後悔しました…。

これから買おうと考えている方は、既刊全部買わないとその日眠れなくなりますよ!買ったとしても途中で止められなくて徹夜しそうですけど!

ここまで続きが気になる作品も久しぶりです。



プロローグ

そうそう、「恋歌」は「追憶」と同じ世界ではありますが、全く違う国のお話です。
「追憶」の舞台となったのは神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上で「恋歌」はバレステロス共和国・斎ノ国・帝政ベレナスの三国が舞台です。

国こそ違いますが海水を原料にした水素電池の飛空機は登場しますし、この世界の特徴でもある大瀑布も存在します。

物語の本筋はカルエルたち飛空士養成学校の生徒たちの話ですが、この1巻ではカルエルが全てを失い、アルバス家に引き取られるまでの話がほとんどです。


そのアルバス家の人がまた人間味あふれるいい人たちなんですよ。

父親のミハエルはいかにもオヤジといった人ですし、ノエル・マヌエル・アリエルもカルエルが落ち込む暇もないくらい明るく優しい三姉妹なのです。

彼らの登場機会は少ないのですが、カルエルがイスラへと旅立つ時の会話

「ありがと、お父さん」
「………」
「絶対、帰るから。空の果てを見つけて。立派な飛空士になって」
「……おう」
 父親の返事を受け取り、顔を下へむけ、カルエルはまた車へと駆け戻った。ミハエルをはじめてお父さんと呼べた自分を胸のうちで褒めた。

だけで十分彼らがどれだけ大きな存在かがわかりますね。


そして後半は少しながら飛空士養成学校での話になります。

カルエルと一緒にイスラへと行くことになったアリエルの兄妹(姉弟)ゲンカや、少し変わっているけれど可愛い同級生クレアとのやりとりは意外にも普通のラブコメらしい明るい雰囲気で楽しませてくれました。

個人的には微かにカルエルに惹かれる素振りを見せるアリエルのこれからが気になります!


新たな主人公

新シリーズ「恋歌」の主人公カルエルですが、「追憶」のシャルルとは正反対の性格でした。
シャルルが、落ち着いていて誠実な大人の男性というイメージならカルエルは、プライドが高いくせに直ぐにヘタレるガキっぽい性格といった感じですかね。まあ、彼の生い立ちを考えればその人格も納得のいくものですけど。


そんな似ていない二人ですが、共通した点もあるように思えます。


特に感じたのは、二人ともどん底からのスタートという点です。

シャルルは生まれから最下層の身分で、そこから一時の思い出を原動力に誠実に生きて這いあがってきました。
カルエルは生まれは高貴でも革命によってすべてを失い、そこから「憎しみ」などを原動力として再び立ち上がっています。


ヒーローという観点で言えばシャルルの方が圧倒的にヒーローですが、カルエルの憎しみの感情はシャルルには無い人間臭さがあり、そういった意味ではカルエルの方が身近に感じました。

そう考えると「追憶」は「美しい感動劇」であり、「恋歌」は「人間味あふれる人情劇」という表現になるのかな。

同じ世界を舞台にしているものの、全く違った雰囲気をもつ作品ですね。



総合

やっぱりこの作者さんはすごいですね。文句なしの☆5つ。

感想の最初でも言いましたが、ラストの5Pは本気でヤバイです!何があっても絶対に最後のページを最初に見てはいけませんよ!


そしてこの巻を読み終えた時、改めてこの人の作品にふるえることになるでしょう!