漂う書庫のヴェルテ・テラ

漂う書庫のヴェルテ・テラ (富士見ファンタジア文庫)

漂う書庫のヴェルテ・テラ (富士見ファンタジア文庫)

【ストーリー】人はか弱き存在であり、故に神々は天井の恩恵――空に輝く星々の力を地上に降り注がせた。その恩恵を授かるためには、祈りを捧げ、印を切らなければならない。そして祈りと印によって星々の力を操り、心に描いたものを地上に具現する行為を、星導―ステラ―といい、星導の行為に長けた者を星導師―テラ―と呼んだ。
星導師の組織「聖堂」による焚書で多くの書物が失われる時代。聖堂が追う『万巻の書』・レジィナと共に旅をする目つきと口が悪い外法星導師のジグウォルは、究極の星導術が記された伝説の書の噂を耳にする。ところが書物を求めるジグウォルの前にはかつての幼馴染で、今は敵対する聖堂の騎士となった少女リシェルが現れる!


やけに可愛らしい表紙だと思ったら『ライタークロイス』の川口先生じゃないですかと即購入。


正統派ファンタジー

本と女が大好きな星導師ジグウォルと、単にして万の書を内包する精霊の少女レジィナが大暴れする富士見ファンタジアらしい正統派ファンタジーでした。


前作「ライタークロイス」同様に異能の力を単純に「魔法」とせず独特の特別な力として扱い、そしてその特別な力がとてもマッチする世界構成が素晴らしいです。

よくよく考えると結構複雑な世界観と設定なんですけど、ページを捲るスピードが落ちることなく最後までスルスルと読めてしまいました。しかも読了後にはその世界がちゃんと理解できているのだから驚き。

川口先生の物語の世界や設定などの「説明」部分を「説明」と感じさせないところはホントにすごいですね。こういった『物語の導入部』、言いかえると『物語の世界へ入り込む過程』と言える部分はどうしてもテンポが悪くて読み飛ばしたくなるところ、川口先生の作品は気付いたらその世界に入ってしまっているんですよ。
その部分に関しては業界トップクラスの実力なんじゃないかな〜?


世界もさることながら

相変わらず美味しいキャラクターがいっぱいですね。

三度の飯より本が好きで、その愛の深さは焚書を行っていた聖堂のお偉いさんを火の中にブチ込む程。さらには女性に対してやんちゃという中々に愛嬌のある主人公・ジグウォルを筆頭に、普段は筆談による毒舌っぷりを発揮しつつ、食事の用意など甲斐甲斐しくジグウォルをサポートする外見十歳の少女『万巻の書』レジィナ。
そしてジグウォルの幼馴染で真面目な性格なのに本編内では主にサービス要員という不憫な少女リシェルと、伝説の書の在処までの道案内としてやってきたサバサバした性格のラフィ。


主要登場人物が主人公以外殆ど女じゃねーか、と思ったりもしましたがそこは突っ込まない方向で。むしろ嫉妬する妻のような反応をするレジィナが可愛いから尚のこと良し。

ここに書いたキャラ以外の例えば『鉄鏃』という定食屋の店主や看板娘、ジグウォルが懇意にしている印刷所の人々など、少ない出番でも味のある人々がその世界に奥行きを感じさせる要因になってました。


外法星導師

聖堂の検閲に適った本以外は焚書されてしまう国で、ジグウォルとレジィナは『五賢七書』と呼ばれる星導の奥義書と聖堂の検閲に関係なくあらゆる本を集める旅を続ける。
そして五賢七書があるかもしれない遺跡の噂を聞き、敵地をくぐり抜けてその遺跡を目指すことに。
これが大筋のストーリーになります。


そしてこの作品の魅力の一つである星導――星の力を利用し、火をおこしたり傷を癒す不思議な現象を起こす術ですが、この一巻だけだとちょっと物足りないと感じてしまいました。

まだその全てが明るみになった訳ではないんですが、一巻の時点では何か特別な設定のようなものが見られないんで星導自体に魅力が感じられないんです。
なので、リシェルとの星導を駆使したスピード感のある格闘戦、そして魔物との強力な星導戦などの戦闘シーンは楽しめても、あくまで星導は魔法と変わりない感覚でした。


ただ、主人公であるジグウォルは星導師たちの組織である聖堂に所属しない外法星導師でありながら、並みの星導師では敵わない実力を持って敵をバッサバッサと倒していく展開は爽快感があって面白かったです!
途中ピンチにもなったりしましたが、そんな場面でもうまい具合にレジィナやリシェルも活躍する機会を用意するあたりにこの作者さんの実力が覗えますね。


総合

まだ一巻ということもあって星導に関してはまだ分からない部分が多かったものの、それでも十分面白かったです!☆4つ!

ここまで感想を書いていて気付きましたが、凝ったファンタジー作品の割に随分と読みやすかったですね。
ラノベ初心者の方にもお勧めです!

あと個人的にはイラストがちょっと可愛過ぎるような気もしますが全然許容範囲内です。


次の巻も期待しています!