悠久のアンダンテ ‐荒野とナツメの物語‐

悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)

悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)

【ストーリー】人間では太刀打ちできない生物――蟲の脅威に人々が怯える荒野でのある夜、幼い少女のナツメは隷属していた隊商が蟲に襲われ、自身にも死が迫ろうとした瞬間に巨大な剣を手にした青年アベルに助けられた。
アベルと過ごした時間はほんの少しだが、硬い表情の中の優しさを持つ彼との出会いはナツメにとってかけがえのないものとなる。
そして数年後。成長したナツメが再び出会ったアベルは以前と変わらず、ただ一人荒野で蟲を狩る日々を送っていた。―――数年前と寸分変わらぬ姿で。

老いることも無く、ただひたすらに蟲を狩るアベルは一体何者なのか。

荒野で力強く生きる少女と謎の青年

一見『蟲』という驚異の存在する雑草も生えない荒野が舞台と言うと、凄腕のヒーローが現れるモンスターを次々に倒していくようなものを想像してしまいますが、これはそんなヒロイックファンタジーではなく、過酷な荒野で一生懸命生きる少女が過去に自分の命を救ってくれた不思議な青年と再会し、逞しく成長していくハートフルな物語でした。

最初はその設定からザ・サードのようなアクションものかなー、なんて思って買ったんですけれども、これはこれで一味違った魅力があって良かったです。
また、単純に『何が』面白い、と言えるような物でもないんですよね。何と言うか…感慨深かった。


序盤から中盤にかけては、幼かったナツメが自分を助けてくれたアベルと再会し、彼に会うために荒野を歩き続けて逞しく成長するとともに徐々に彼に惹かれていく過程にニヤニヤしたり、お互い大切な存在に変化していく様子に小さな幸せを感じたりと、物語がゆっくりと――それでこそタイトルのアンダンテ(歩くような速さ)で進んでいくのは思っていた以上に魅力的でした。

後半の老いることもないアベルとこの世界(荒野)と蟲の謎が明かされていく展開にちょっと戸惑いましたが、それでも物語全体を通して心に染みる温かさを感じられる作品ですね。


歩んでいく強さ

何故アベルは蟲を狩るのか、蟲の謎だとか色々と気になることはあるのですが、サブタイトルが『ナツメの物語』というだけあって物語の魅力の大部分はナツメ自身にありますね。

命の恩人であるアベルに再開した後、危険にもかかわらず何度も彼に会いに行く一途さだとか、蟲が蔓延る荒野で走りまわる強さだとか、アベルの前で見せる可愛いところだけでなく、とにかく前へ前へと進む姿に凄く惹きつけられました。
ホントはもっと書きたいこともありますけど、実際に目にしてもらわないと彼女の魅力は伝わらないなぁ。

これだけ魅力的なヒロインは久しぶりですね。単純に女性としての魅力だけでなく人間としても彼女は素晴らしいです。


総合

う〜ん…難しい。☆5つに限りなく近い☆4つですかね。後半駆け足気味にだったのがちょっと惜しかったかな?


読書メーターを見る限りだとそこまで絶賛な人はあまりいないようですが、エピローグも含め個人的にはかなり好き。
アクションを期待する人は起伏が少ないので確かに物足りない…というかアクションシーンがほっとんどないですからね。
でも主にキャラの心の動きだとか、人間描写と雰囲気の作り方は素晴らしい。よく考えてみれば何の変哲もないセリフなんですけど、雰囲気の使い方(多分、間の使い方がうまいのかな?)のおかげでじわっと心に染みてきます。



ともあれ、とても楽しませていただきました。ありがとうござます!