放課後は、異世界喫茶でコーヒーを

 

 

魔法の息吹がかかったアイテムや食物が産出される『迷宮』。これを中心に栄える迷宮都市の外れに佇む一軒の喫茶店では、この異世界で唯一コーヒーが飲める。

現代からやってきた高校生店主ユウが切り盛りするこの店には、コーヒーの芳しい香りにつられて、今日も喫茶店グルメを求めるエルフやドワーフ冒険者たち、そして街の有力者までもが“常連”として足を運ぶ。近所にある魔術学院に通う少女リナリアもそのひとり。

まだ、コーヒーは甘くしないと飲めないけど、ユウがいるこの店の雰囲気がお気に入り。でも、ライバルの女の子たちは他にもいて?恋のスパイスが効いたおいしい物語を異世界喫茶からお届け。

 

華々しさはなくとも、ほっと一息落ち着く安心感と幸福感…。そしてほんの少しの切なさ…。

 

とても、心に染み渡る温かさを感じる作品でした。

魔法やダンジョンが存在し、獣人や魔物などが跋扈する”異世界”。そこに普通の高校生が突如転移するという、所謂テンプレ感を感じる設定からは想像もつかない程の日常感。

というのもこの主人公ユウ、異世界に来てもほとんど喫茶店から出ないのである。

そして語り部はユウの一人称視点。

 

なので語られる異世界は喫茶店客の伝聞のみ。

 

主人公が華々しい活躍をするでもなく、魔術学院に通う女生徒、仕事を抜けてきた爺さん、食に対する拘りが強い裏社会のボス(白ウサギ)など、特にキャラが濃いというわけではない普通の人(?)物たちと喫茶店のマスターと客という立場で話に華を咲かせるのがこの作品。

 

でも、そこが何よりの魅力。

本当に所謂ライトノベル的なテンプレートや展開は出来るだけ抑えて、現代人と異世界人との触れ合いを丁寧に、丁寧に描かれてるんです。

なので異世界に生きて、悩んで、生活しているキャラクターが感じられる…。

だからこそ、現代人の主人公”ユウ”の特異さが際立ってくる。

 

序盤こそ達観というか異様なほど異世界に馴染んだユウが淡々と異世界人と談笑してるんですが、客のひとりひとりと接して距離が近づいていく程、疎外感と孤独さが浮き彫りになって苦しさが強くなってく…。

でも、”異世界”に生きている人たちがいてくれるからこそ、悩みはなくならないけれど、ユウは生きて前に進んでいくことができる。

 

そういった意味でこの作品は本来の”異世界転生”と言えるんじゃないかな。

 

血沸き肉躍る冒険や、魅惑溢れるヒロインたちとのラブロマンスは無いかもしれないけれど、喫茶店のような落ち着いて安心できるような、でも少しほろ苦い雰囲気を楽しめる素晴らしい作品でした。