ゼペットの娘たち

ゼペットの娘たち (電撃文庫)

ゼペットの娘たち (電撃文庫)

【ストーリー】自我を持ち、成長する<機鋼人形>の少女ハリケーンは、彼女の創造主であるサツキに連れられてマリスの街にやってきていた。サツキは巨大な借金を抱え、ハリケーンのために「最高の主人」を探しに故郷イリエから来たのだが、様々なトラブルに巻き込まれてしまう。
機鋼人形作りにしか興味がない少年サツキと作られたばかりで常識をしらない機鋼人形の少女ハリケーン、サツキの面倒を長年見ていたせいですっかり苦労人になった犬型機鋼人形トルネードの二人と一匹の織りなすほのぼのファンタジー!


これは個人的にかなりお気に入りの作品です。
大きな事件が起こるわけでもなく、かといって大恋愛な話でもない、ちょっと変わってはいるけどいたってほのぼのしたストーリーが魅力な物語です。
様々な魅力を持つライトノベル業界の中でもなかなか見られない作風ではないでしょうか?


<ゼペット鋼>という意志を持ち成長する金属が開発され、そのゼペット鋼を心臓として作られた人形が世の中に広まっている世界が背景なのですが、大体の雰囲気は近世ヨーロッパという感じですかね?
途中でちょっと嫌な人物も出ますが、戦争や犯罪といった大きなネガティブイメージは少なく、最初から最後までほのぼのした気分で読めました。
文学少女的にいえば「まるでふんわりふかふかのあまーい綿菓子の食べているみたい!」
人形(ロボット)を主題とした作品でいうと「ポストガール」などがありますが、あそこまでノスタルジックでもありません。読んでいるとホワホワした気分になってくるので、血沸き肉踊る熱血バトルや愛憎渦巻く大恋愛などの激情な本に疲れてしまった人はこの本を読んでまった〜りしましょう。


この物語独特の空気を作っているのは何と言ってもサツキたち三人ですね。

「そう言うなって、トルネード。ほら、あの子がこっちを見たぞ。ほんとにきれいで、動きも自然だ。やっぱり都会はすごいな、あんな高度な機鋼人形にいきなり会えるなんて」
サツキはすっかり夢中という口調で、興奮を抑えきれないという表情だ。
「知るかって。おまえなにしにマリスに来たか忘れてないだろうね?こんなことで道に迷うなんて間抜けすぎるよ」
「そうですよ、サツキさん。早く行きましょう」
「うん、わかった。・・・もうちょっとだけな」
「さっきもそう言ったよね?」
「言いました」

機鋼人形に関しては天才だが、同時に機鋼人形意外のことが頭にない変態の少年サツキ。そんなかれの面倒を長年見てきたせいですっかり苦労人となってしまった犬型機鋼人形トルネード。そして作られたばかりでいまいち常識が欠けている少女型機鋼人形ハリケーン。
そして都会で会った一見愛想はなくそっけない機鋼人形師のニコ・メイビスと名前のとうり優雅で上品な機鋼人形エレガンテ。更にはお金持ちだが気取ったところのない良い人たちのロックハイム兄弟。
彼らと彼らを取り巻く人たちの少しおかしくも穏やかな空気は一読の価値ありですよ!


物語の方は注文を受けてハリケーンを作ったが、突然注文キャンセルを受けてしまったために巨額の借金を抱えてしまい、せめてハリケーンのために最高の主人を探しにマリスの街にやってくるという、ちょっと重そうな話ですが、そこもシリアスになりすぎず、この作品の雰囲気を壊さない程度に引き締まっているので安心して読めます。


イラストも物語の雰囲気にぴったりのふんわりかわいらしい絵で和みます。
特に265Pや303Pのイラストはハッとさせられる何かがあります!イラストだけでもちらっと見てもらえれば、この作品の空気がわかるでしょう。
イラストレーターの宮田筝治さんの名前は覚えておいて損はありませんね。


既刊は今のところ二巻ですが、絶対に読み続けたい作品です。