ライタークロイス2

ライタークロイス〈2〉 (富士見ファンタジア文庫)

ライタークロイス〈2〉 (富士見ファンタジア文庫)

【ストーリー】思わぬトラブルで騎士になり損ねたカインだったが、ファリアの従衛に採用され、来年度の騎士登用試験を目指すことに。
帝国での生活は田舎育ちのカインには刺激に満ち溢れるものばかりで、カインはそこそこ充実した毎日を送っていた。が、ファリアがまたしても問題を持ちかけてくる。
何でも、隣国へ行く自分に従衛としてお供せよ、とのこと。言っていることは簡単だが、前回の一件でファリアの性格が良く分かっているカインとレイクはそこに危険が待ち受けていると簡単に予想できるのだった…。


1巻の感想から少し時間がたってしまいましたが、シノさんおススメのシリーズ第2巻です。


やっぱり

この作品はアクションよりも日常パートの方がおもしろいな〜。


読んでみるとわかりますが、1冊の構成のほとんどが帝国での日常に割かれているのでアクション成分は少なめ。
というより、元々私はこの作者さんの書く情景の鮮やかさが気に入ったので何の問題も無く楽しめたんですけどね。

これといって大きな出来事は起こらないけど、帝国の歴史とかそこに住む人々の話が面白い。

例として歴代皇帝の話なんかがありまして。

物語に直接関わったりはしないんですけど、数々の逸話が面白くて登場せずともそのキャラクターに魅力が溢れてますね。因みに私が一番気に入ったのは第十五皇帝リラです。特別に彼女はちょっと引用。

 あるとき、リラは良人(夫)を「浮気をした」として、煮えたぎる湯を満たした桶を抱えて宮中を追い回した。
 また、あるとき、良人を「他の女と親しくしていた」として、錆びついた剣を握りしめて宮中を追い回した。
 また、あるとき、良人を「他の女と話していた」として、右手に松明をかざし、左手に油を満たした壺を抱えて宮中を追いかけまわした。
(中略)
 この奇行は、かなりの間続いたようである。
 これが、憤怒を顔に漲らせ、衣の裾を跳ね上げんばかりに駆けた、というのであればまだ理解もできるのだが、この情景を見た者たちの感想はほぼ一致している。
「涼やかな笑顔の中に、どこか虚ろな幽鬼の如き眼差しをしていた」
「衣の裾を乱さずに歩き、通りがかった女官には優しげな言葉さえかけていた」
 リラは生涯この良人と別れず、離婚話も一度も持ち出さなかったらしい。

ヤンデレ皇帝蕩れ〜。

何だか全然ストーリーには関係ないけど、こういう細かいところがちょくちょく笑えて楽しめるんですよね。
もちろんカインが騎士になるために訓練したり、ファリアの旅にお供する主なストーリーも面白いんですが、それよりも帝国内でちょっと変わった老人との話だったり、上記のような帝国内の歴史や人々の生活の方が読んでいてファンタジーを感じました。


女の戦い

そしてこの巻一番の魅せ所はイングリドさんとファリアの対決でした!

冷静で誠実なイングリドさんと、活発で奔放なファリア。
正反対の二人が静かに火花を散らすシーンは汗が(色んな意味で)止まりません!

――元々気に入らない、こいつは。
あの人の人生を歪めておきながら、それを反省しているようには見えない。
無関心を決め込むかのような無表情をしておきながら。
心は決して笑うことなく、目の奥が凍りついている。本心を明かそうとしない。
目には、露骨に感情を出している。言葉がもったいないなとでも言いたげに。
皇族だからなんだというの。
人の好意を無にしておいて。
だから。
そうだ。
この皇女は。
この侍女は。

――こいつは敵だ。

今まで顔を合わせれば何かといがみ合ってきた二人ですが、今回ハッキリとお互いを敵と認識します…。
なんか本当にこの作品はファンタジーなのに、ファンタジー以外の部分が強烈ですね…。

間に挟まれているカインの平和っぷりがウソのよう…。そうか、これが台風の目ってやつか…。


物語後半ではカインが帝国から離れてしまうのでイングリドさんの出番は必然的に減ってしまうのですが、それでも彼女の魅力は前巻に劣らず素晴らしい!
次の巻から登場しなさそうなのが残念です。


総合

日常パートの方が面白い、と書いていますが、強力な敵に対してカイン・レイク・ファリアの三人が手を組んで倒すアクションシーンも十分面白かったです。
さらには帝国外での怪しい動きや、ライタークロイスについての謎も深まってきたことで、段々とストーリー自体にも魅力が出てきましたね。
欲を言えば、戦闘シーンがちょっと盛り上がりに欠けたので、もう少し臨場感や感情の動きのある文章で迫力を出して欲しいところ。

☆は4つですが、この一冊だけでは物語が完結しないので現段階で☆4つになっています。
助走が大きい分、次の間に期待が高まります!