とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

【ストーリー】レヴァール皇国の傭兵飛行士のシャルルに課せられた任務は信じられないものだった。
それは、「その美しさは光芒五里に及ぶ」とまで謳われる皇妃ファナを複座式水上偵察機サンタ・クルスに乗せ、敵国・帝政天ツ上国の勢力を突っ切って皇国本土まで送るという、流れ者の自分には考えられない程重要な任務だったのだ。
こうして、飛行士シャルルと皇妃ファナの二人っきりの海上突破の旅が始まる。


かなり今さらかもしれないけど、すっごくよかった…。

まだ読んだことのない方、迷う必要はありません。直ぐにこの本を手にとってレジへ向かってください。でないと後悔します。私は何故もっと早くにこの本を読んでいなかったのかと悔やんでいるところですので…。


天と地ほど身分の違うシャルルとファナの恋や、圧倒的な性能と数を持つ敵陣の中、武装がほとんどない飛行機一機で戦うという緊張感マックスの戦闘シーン、海の中心で二つの大陸を分かつ大きな滝のあり、海水を燃料にする動力を持った飛行機が飛び交う世界観など、語りたい魅力は山ほどあるので全部は書ききれませんね!


美しくも切ない恋愛模様。

恋愛もの好きな私としては、やっぱりシャルルとファナの刹那的で切ない恋愛模様に惹かれました。


この世界は生まれた身分で一生が決まるような厳しい階級社会。
シャルルは戦争する二つの国の人間が両親のハーフで身分的には最下層に位置し、両親を亡くしてからは一人で傭兵の飛行士として暮らし、
対してファナは有力な商家の生まれで「その美しさは光芒五里に及ぶ」と謳われるほどの美貌を持ち、皇子から婚約を申し込まれ、身分社会のトップとなる人物。

本来なら決して隣に存在することができない二人が運命的な再開をし、約5日間という限られた時間と敵に狙われている危険な状況の中、空という誰にも平等な場所で仲が深まっていくという展開がよかった!


そしてまた主人公二人が魅力的なんですね〜。


次期皇女のファナは、
初めの頃こそ無表情・無感情で作中の「自動人形」という表現がぴったりなキャラクター。
ところが、シャルルと一緒に様々なトラブルを経るにつれて元の明るい性格になっていきます。
その変化がまた劇的で、後半は最初の頃の「自動人形」の印象ががらりと変わるほど表情豊かに!前半のギャップもあると思いますが、後半の元気な仕草は本当に魅力的でしたね。



シャルルに関してもまた良いキャラでして、
幼いころのファナとのわずかだけれどとても優しい記憶を大切にし、唯一の支えにして生きてきた誠実な少年です。
作戦中は昔の元気な性格を取り戻したファナとずっと一緒にいたいと思いながらも、彼女のことを考えるならば皇子の待つ都市へ行くべきという考えの間で葛藤する姿は読んでいて辛かった…。


幸せな時間と厳しい現実

敵が何度も追ってくる危機的な状況の合間のわずかな幸せな時間がとても輝いて見えるんですが、いずれ終わりが来てしまうという現実がホントに苦しい…。

シャルルとファナの二人の仲が良くなればなるほど、その違いすぎる身分とファナを都市に送り届けるという任務が辛く悲しいモノになっていくんです…。

もう何度「もうダメ皇子のことなんかいいからファナと駆け落ちしちゃえよ!」と心の中で叫んだことか…。
終盤の友軍の迎えがファナを連れ去るシーンは、とても綺麗だった物語が踏みにじられた様で泣きそうになりました…。


しかし、その後シャルルが取った行動で一気に感動へ…、というか涙腺崩壊。
読み終わった後に表紙を見てまたまた感動の嵐が…!

これから書店でこの表紙を見るたびにこの感動が甦ってきそうです。



総じて

素晴らしいの一言。
散々書いた二人の儚い恋愛意外にも魅力はたっぷりあって、エピローグでも語られているように男女ともに気に入るというのも納得です。

絵師さんもカラーでは美しく、挿絵ではキャラクターの表情に感情が乗ってて良かったです。というか、この表紙はすごいね!
初めて見た時は何とも思わなかったけど、読み終わって感動に浸っているとき、ふと表紙を見直したら一気にトドメをさされました!この表紙を考えた編集さんはすげぇ!

最後になりましたが、何よりも、緊迫感溢れる飛行機同士の一騎打ち・二人の儚い恋愛・雄大な世界観など、それらの魅力を最大限に引き出しているの作者の情景描写などの筆力が素晴らしかった!文句なしの☆5つです!